2022年に厚生労働省が行った調査によると、過去1年間にメンタルヘルスの不調により、連続して1カ月以上休職した者がいた事業所は全体の10.6%にのぼります。
現在日本の労働力人口が6902万人であることを考えれば、実に730万人もの人がメンタルの不調を訴え休職しているのです。
中には一家の大黒柱である夫が会社に行けなくなり、突然ひきこもってしまうという事例もあります。
今回は夫がひきこもってしまった時に、社会復帰するまでの間を支える支援制度についてお伝えします。
参照:厚生労働省HP「令和4年 労働安全衛生調査(実態調査)」https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r04-46-50_kekka-gaiyo01.pdf
夫の様子に変化が。急に会社にいけなくなる日
ひきこもりの定義としては「就学、就労、交遊などの社会的参加を回避し、原則的には6ヵ月以上にわたって、おおむね家庭にとどまり続けている状態」といったものがあります。
大人のひきこもりと聞くとニュース等で取り上げられる「5080問題」のように、若い頃からずっとひきこもっている人のことだと考える方が多いのではないでしょうか。
しかしバリバリと仕事をして一家を支えていた筈の夫が、急にひきこもってしまうということもあるのです。
一家の父親が仕事に行けなくなってしまうのは、家庭にとっても大問題でしょう。
ひきこもりは病気ではありませんが、ひきこもりの原因としてうつ病や統合失調症といった精神疾患など、心の病気や不調が関係していることは少なくありません。
うつ病は「心の風邪」といった言葉もありますが、こじらせると社会復帰・職場復帰に長い年月がかかります。
うつ病や精神疾患の回復には、早期の治療開始が欠かせません。
もし夫がある日突然会社に行けなくなったら、医療機関を受診したり、地域のひきこもり地域支援センターなどに相談したり、当事者や家族だけで抱え込まず周囲に支援を求めましょう。
参照:厚生労働省HP「ひきこもり支援推進事業」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/hikikomori/index.html
夫がうつ病と診断。傷病手当金のもらい方は?
病院を受診してうつ病や適応障害と診断され休職することになったら、傷病手当金の受給を検討しましょう。
傷病手当の受給には、医師の診断書が必要な場合があります。
早めにかかりつけの心療内科や精神科、または勤務先の産業医などに相談しましょう。
傷病手当(金)とは?労災との違いは?
病気やケガをしたときに受け取れる手当には雇用保険の傷病手当と、健康保険の傷病手当金があります。
どちらも企業に勤める方が病気やケガ等で、働けなくなった時にサポートしてくれる制度です。
似た言葉で混同しがちですが、2つは異なる制度で利用できる状況も違うためご説明します。
病気やケガ等で働けなくなった方が、失業後に受給するのが「雇用保険の傷病手当」であり、以下のような受給条件があります。
・離職後にハローワークで求職の申し込みをしている
・求職中に病気やケガをした
・求職から15日以上が過ぎても仕事ができない状態である
一方「健康保険の傷病手当金」は、会社員や公務員の方が加入する健康保険から、加入者が在職中に病気やケガで休職を余儀なくされ、就労できなくなった時に受け取れます。
病気やケガが原因で会社を休業し療養している最中に、給与の一部にあたる金額を支給されます。
他にも雇用されている方が受け取れる支援としては「労働者災害補償保険(労災)」があります。
企業に雇用されている方が仕事中や通勤中に起こったことで、病気やケガ、障害・死亡した場合に給付される制度です。
労災の場合、正社員だけでなくパートやアルバイトといった非正規雇用の方も含み、保険料も企業が全額を負担しています。
健康保険の傷病手当金よりも手厚い補償制度ですが、うつ病での労災認定は難しいといわれているのが現状です。
これらの雇用保険の傷病手当と健康保険の傷病手当金、そして労災を同時に利用することは、各制度の受給条件が異なるため不可能です。
【病気やケガの状況別の給付制度】
・健康保険の傷病手当金……在職中、仕事や通勤以外での病気やケガなどで受け取れます
・労働者災害補償保険……在職中、仕事や通勤時に起因した病気やケガなどで受け取れます
・雇用保険の傷病手当……退職後、求職期間中の病気やケガなどで受け取れます
また自営業やフリーランスの方は原則的に傷病手当金等の受給はできません。
そのため労働者災害補償保険の特別加入を利用したり個別に民間保険に加入したりするなど、万が一に対して備えておけば安心です。
今回は休職中の方が利用できる、「健康保険の傷病手当金」について詳しく解説します。
参照:厚生労働省HP「Q&A」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000139508.html
参照:全国健康保険協会HP「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3040/r139/
参照:厚生労働省HP「精神障害の労災認定」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120215-01.pdf
参照:厚生労働省HP「精神障害の労災補償状況」
https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/000521999.pdf
傷病手当金の受給条件
もし夫がうつ病と診断され、会社を休職する場合は傷病手当金を受け取れます。
傷病手当金の受給条件は以下の通りです。
1.うつ病の発症理由が仕事以外である
※仕事中や通勤中の病気やケガは、傷病手当金ではなく労災保険の対象
2.うつ病を発症したため仕事ができない
3.連続する3日間(待期期間)を含み4日以上仕事ができない
※4日目以降の休んだ日に対して支給
4.休業期間中は給料が支払われていない
※ただし支払われた傷病手当金よりも給料が少ない場合、その差額を受け取れます。
傷病手当金の受給額
1日当たりの傷病手当金は「支給開始日の以前12か月間の各標準報酬月額を平均した額」÷30日×(2/3)と計算されます。
このことから傷病手当金の1カ月の受給額は、過去1年間の平均月収の約2/3までとなります。
例えば準報酬月額20万円の方なら、20万円÷30≒6,670円(10円未満四捨五入)となり1日当たりの傷病手当金の支給額は 6,670円×3分の2=4,447円(1円未満四捨五入)となります。
※傷病手当金支給日以前の保険加入期間が12カ月未満の場合は、「支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均」か「日本年金機構が定める標準報酬月額の平均額」のどちらか低い額が基準となります。
※傷病手当金の受給中であっても、社会保険料や住民税を支払う必要はあります。
参照:全国健康保険協会HP
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/honbu/event/kohoshizai/47_sogo_syoute.pdf
傷病手当金が減額や支給されないことも
傷病手当金は以下のような支払いや支給がある場合は、受給金額が調整されます。
・給与の支払いがあった
・同じ病気やケガ等で障害年金や障害手当金を受給している
・労災保険から休業補償給付を受けている(受けていた)
・出産手当金の支給を受けている
・老齢退職年金が受けられる
傷病手当金の受給期間
令和4年から傷病手当金の受給期間は、連続して休んだ3日間を除く4日目以降から支給が開始され、通算して1年6ヵ月受給できるようになりました。
これはうつ病の方が長期間の療養や入退院を繰り返しながら働く場合があることから、柔軟な保証制度に変更されたのです。
この制度変更により治療しながら働いていた方が、途中で再び働けなくなっても通算1年6ヵ月の間は治療と仕事を両立できるようになりました。
またこの制度変更により「退職日までに継続して1年以上の被保険者期間があること」と「退職日の前日まで傷病手当金を受けている。または受ける条件を満たしていること」といった条件を満たしていれば、退職後も傷病手当金の継続受給が可能になったのです。
傷病手当金申請の流れ
健康保険の傷病手当金申請の流れは以下の通りです。
1.健康保険の窓口や会社が加入している健康保険組合・協会に相談し申請書を貰う
2.申請書や添付書類の準備
・被保険者記入用の書類
・医療機関からの「療養担当者(医師等)記入用」書類
・勤め先の会社からの「事業主記入用」の書類
3.申請書や添付書類の準備ができたら会社に提出
4.会社が申請書一式を取りまとめ、加入している健康保険組合・協会(保険者)へ支給申請
参照:全国健康保険協会HP https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3040/r139/
再スタートのために
傷病手当金は1年6ヵ月で受給終了するため、その間に体調が回復せずフルタイムでの就労が難しいこともあるでしょう。
そのような場合に利用できる支援制度を紹介します。
障害年金の受給
障害年金は条件を満たせば、現役時代から受け取ることのできる年金です。
「日常生活を送るうえで著しい制限」のある方の生活を保障する制度であり、企業に勤めて厚生年金に加入している方は「障害厚生年金」を、自営業や農業などに従事して国民年金に加入している方は「障害基礎年金」を請求できます。
※障害年金3級は厚生年金加入者のみが対象です。
※厚生年金加入者の場合は、障害厚生年金を受給するほどではない障害でも、一時金として障害手当金を申請できます。
※障害者控除の適応と障害者手帳の取得では認定基準が違うため、障害者年金を受給している方に障害者控除が適用されない場合もあります。
日本年金機構によると67歳以下の障害者年金受給者に支給される、最新(令和5年度4月分から)の年間受給額は以下の通りです。
尚、障害厚生年金3級は配偶者加給年金及び子の加算はありません。
障害基礎年金(国民保険加入者) | 障害厚生年金(厚生年金加入者) | |
1級 | 99万3,750円 | 報酬比例の年金×1.25 ※1 |
2級 | 79万5,000円 | 報酬比例の年金 ※2 |
3級 | なし | 報酬比例の年金 (最低保証額:59万6,300円) |
配偶者の加算 | なし | 22万8,700円 |
子の加算 | 一人につき22万8,700円(3人目以降は7万6,200円) |
※1 同じ等級の障害基礎年金(99万3,750円)も支給されます。
※2 同じ等級の障害基礎年金(79万5,000円)も支給されます。
参照:日本年金機構HP「障害年金」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/jukyu-yoken/20150401-01.html
就労支援事業所などの就労サービスの利用
就労移行支援は障害や難病の方が一般企業での就労に向けて、必要なスキルを学ぶ通所型の障害福祉サービスです。
就職活動のサポートを受けることができ、就職後のケアとして就労定着支援も行っています。
就労移行支援事業所は実に9割の方が無料で利用しています。
自己負担が発生するか否かは、利用者本人と配偶者のどちらかの前年の収入が概ね100万円を超えているかどうかが目安です。
利用料金は1回ごとに発生しますが負担には上限があるため、仮に料金が発生しても下記表の金額を超えることはありません。
区分 | 世帯の収入状況 ※1 | 負担上限月額 |
生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 |
低所得 | 市町村民税非課税世帯 ※2 | 0円 |
一般1 | 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満) ※3 ※入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者を除きます。 ※4 | 9,300円 |
一般2 | 上記以外 | 37,200円 |
※1 配偶者がいる方は、利用者本人と配偶者の所得の合算となります。一緒に暮らしている両親や兄弟の収入は合算されません。
※2 3人家族で障害基礎年金1級の場合、収入がおおむね300万円以下の世帯が対象です。
※3 所得割が16万円未満とは、おおむね収入が600万円以下の世帯です
※4 入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者は、市町村民税課税世帯の場合、「一般2」となります。
参照:厚生労働省HP
まとめ
ある日突然に一家の大黒柱である夫がひきこもってしまった時、本人や家族を支える支援制度についてお伝えしました。
うつ病は生涯で15人に1人が発症するといわれるほど身近な病です。
またストレスの多い現代社会においては、どのような人であってもうつ病を発症しひきこもってしまう可能性があります。
今回紹介した制度以外にも、社会復帰までの生活を支える支援制度は数多くあります。
自分が利用できる制度を知ることで、焦らずに社会復帰を目指しましょう。
私たちCOCOCARAは、就労移行支援事業所として、障害等の事情があってお仕事に就くことに苦労している方に対して、相談や就職準備、アドバイスなどのサポートを行っています。
「障害があるから仕事が見つからない…」などのお悩みを抱えている方は、一人で悩まずに一度相談に来てみてはいかがでしょうか。
私たちと一緒にご自分に合った働き方について考えてみませんか。
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